unun を完全防水化して軒から出す

概要

  • unun (unbalanced-to-unbalanced) の M レセプタクル部分が(おそらく直射日光にやられて)壊れた
  • FT8 でやってみたら、unun が軒下にあると飛びが悪い
  • unun を完全防水化して軒から出せば、もっと飛ぶようになるのでは?

背景

FT8 を使って電波の飛びを見ていると、いくら 5W/10W とはいえ、全然飛んでいかない。アンテナチューナーやアンテナを作るにあたっていろいろな資料を読んでみて、給電点(UNUN)が電流の腹(最大電流)になる重要ポイントであって、これが軒下にあるのではまずいのでは、と思うようになってきた。

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軒下設置の unun。簡易防水なので、上から更に傘をかけてある

そこで、既存の unun の接続用同軸ケーブルを 3m から 5m に替え、もともと伸縮可能にしてあるのでこれを延ばしてみたら…unun が壊れた。M型レセプタクルのプラスチック部分がコネクタから抜けてしまうため、M型プラグを差し込むことができなくなってしまった。

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M型プラグを差そうとしたら、M型レセプタクルのプラスチック部分が抜けてしまった

この unun は100均で買った保存容器に入っているのだが、実は本来、こういう形の密閉はよくない。温度差で空気が膨張・収縮するので、空気穴を開けつつ防水する必要がある(アイコム製屋外型 ATU AH-4 には空気穴が開いているそうだ)。そこでこの形式での防水はやめて、アクリル板に直接同軸ケーブルと unun 本体(コア)を取り付けて、銅線が露出している部分をエポキシ接着剤で固めてから、全体をシリコーンで充填して防水することにした。

製作

まずはベースとなるアクリル板を作る。

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ベースとなるアクリル板にドリルで穴を開け、取り付け用のタイバンドを取り付ける

次に同軸ケーブル・ワイヤー向けコネクタ(防水ギボシ)・ラジアル向けコネクタ(防水ギボシ)を、コアと配線する。

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同軸ケーブルとコアを取り付けた

このあとシリコーンシーリングをかけるのだが、その中に含まれる溶剤が銅を酸化させてしまうので、特に問題はないらしいけど念のためエポキシ接着剤で銅が露出している部分を固めておく。

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エポキシ接着剤で銅が露出している部分を保護

最後にシリコーンシーリングを施工する。アクリル板なので一般的なシリコーン(セメダイン8060など)は使えない…というのをあとで知ったので、わざわざアルコール系シリコーンシーリングのセメダイン8051Nを買ってきて充填した。

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シリコーンシーリング完了

あとはこれをバルコニーに設置して完了。今度はモロに雨がかかる位置にも設置できるので、軒下から張り出す形で取り付けた。

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バルコニーに設置。今度はモロに雨がかかる位置にも設置できるので、軒下から張り出し。

実験結果

本日、実験をしてみたものの…7MHz のコンディションが大幅悪化したため、ほとんど飛ばなかった。まぁ、HF なのでそんなこともあるだろう。少なくとも、プラスチック部分が劣化して壊れる心配はなくなった。ただし、自宅前の私道に車を止め、その屋根上に RHM8b を載せて試してみたほうがよく飛んだので、やはり ATU-100 で 4m のワイヤ、というのは厳しそうである *1。今後はなるべく ATU-100 のインダクタンスを使わないですむように、Q の大きい大型の延長コイルを作って、ATU エレメントと unun の間に差し込んでみたい。

*1:ただし、冷暖房のある部屋で運用できるメリットはある。

2アマ受験記

先日2アマを受験して合格しました。

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受験の背景から、合格後の手続きまでをまとめました。

背景

  • HF出たいな
    • リグどうしよう
      • 移動なら 50W まで(3アマでも使える)
      • とはいえ 50W機を移動で使うにはバッテリ大変そう(車のシガーソケットでも電流が足りないので、別途鉛蓄電池や発動発電機が必要)
      • 逆に自宅で50Wは中途半端(QRPでもないし100Wほどは飛ばないだろうし)

ということで、

  • 移動用には小型バッテリで稼働するポータブル機
  • もし追加で自宅用に買うとしたら 100W 機

という組み合わせがよいのではないかと考えた。そこでまず、今年 (2021年) 正月に、移動用・災害対策用にも使える IC-705 (バッテリ駆動10W機) を購入した。

さて、100W 機を使うには2アマ以上の資格が必要であり、3アマのままでは使うことができない。また、海外との交信によく使われる14MHz帯(と10MHz帯)に出るにも2アマ以上が必要になる。

ところで、「2アマ以上」と言うが、1アマは必要なのだろうか? 1アマ2アマの違いは出せる空中線電力の違いだけ(2アマ200Wまで、1アマ制限なし)*1。よって、200W以上出す必要があるのかが分岐点になる。市販の無線機は100Wまでしかないのと(それ以上は改造やリニアアンプの直列接続で増力)、戸建てとはいえ住宅街で500Wだの1kWだの出すと電波障害が心配だし申請も大変そうなので、

  • 2アマを取って、必要性を感じた時点で100W機を買う

ということに決め、2アマの勉強を開始することにした。

ここまでの経過

  • 中1: 4アマを講習会で取得
  • 中3: 3アマを国試(モールス受信25文字/分)で取得 *2
  • 高校: 理系クラスで物理選択(物理IIまで受けた)
  • 大学: 情報系学部で複素関数論・論理回路などを受講
  • 社会人: ソフトウェアなので無線系の内容とほぼ関係なし

社会人はともかく、学歴はアマチュア無線技士の試験に非常に親和性が高いものになっている。複素関数論に至っては、教えていただいた先生の専門がアンテナ。その上現在の2アマはモールスの受信試験はない。いけるな、と思って、IC-705購入と時を同じくして受験することを決め、2021年2月に受験を申し込んだ。

私はこう勉強した

個々人で全く異なると思うので、参考までに。2021年4月の試験を受けるべく、2021年1月4日から勉強を始めた。

用意したもの(使った本)

勉強の方法

  • 工学は机に向かって紙とペンで計算する必要があるので、早起きしたり夜中に時間を作って勉強
  • 法規は本を読むだけでできるので、庭や公園で子守りしながら勉強
  • ある程度勉強が進んだら過去問をやる。本より薄いので電車移動中でも解ける

上で挙げた問題集のほうを2-3周やった。この状態で過去問を解いてみたところ、どの回でも合格範囲の点数になった。

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回によっては新問がある。"R2.4" はコロナ騒ぎによって前日に急遽中止されたらしく、過去問なし。

以下に工学・法規の細かい tips を挙げておく。

工学

  • 電気物理・電気回路(コンデンサ・抵抗): 高校物理を思い出せばOK…なんだけど当初は途中計算ミスの連発。計算のリハビリが必要。
  • インピーダンス・共振: 2アマでは複素数出てこないけど、途中経過を複素平面上で計算すると勘違いや計算ミスが少なくなるのでおすすめ(ここで複素関数論が活きた)
  • 増幅: バイポーラTr, FET を復習。コレクタ接地とか、3アマでやったっけな…バラクダイオードでなんやったっけ?
  • 論理回路: OR/AND/NAND/XOR とか。情報系学部を出ていれば復習の必要なし
  • 電源: 整流回路が意外に難しい(半波・全波・倍電圧)
  • 測定: 工学で一番苦戦した。おぼえとれん!(最終的にはなんとか暗記した)
  • アンテナ: 趣味のアンテナ作りの知識は役立つが、放射抵抗は丸暗記が大変だった(ダイポール73, GP 21, etc.)

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バイポーラトランジスタと FET を覚える

法規

  • モールスはアルファベットだけなら大したことないが、Q符号を絡めてくるのでそこは覚える(忘れている)。
  • 周波数帯: 覚える。HFはほぼ使わないので7MHz帯以外はうろ憶え。特に10MHz帯や24MHz帯といった WARC バンドは全然憶えてない。
  • 電波形式: もうA3Jとは言いません(J3E)。ファクシミリを3文字目 "F" でひっかけるのがお約束(正しくは "C")。
  • 罰則は「1年以下の懲役・100万円以下の罰金」ではない例外を覚える。
  • 「常置場所の変更」と「設置場所の変更」では手続きが違う、といった2アマ以上特有事項は新しく憶える(3アマは実質移動する局しか開局できないので、移動しない局における「設置場所」の概念がほぼ不要で憶えてない)
  • 国際法規と日本の規則が微妙に違うので注意(例: 識別信号は国際法規では「短い間隔」、国内法規では「おおむね10分に1回」)

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「1年以下の懲役・100万円以下の罰金」がほとんどなので、それ以外のものを覚える

試験に申し込む

日本無線協会 から申し込み。4月の試験は2月に申し込み。いまどき郵便振替もネットでできた、べんりー。居ながらにして申し込み手続きすべて完了。

受験当日

「人身事故で1時間缶詰」とかを想定して、余裕時分60分をとって出発。試験開始9:30、事前説明開始9:15なので、自宅出発は7:15に設定。腹持ちのよいマックグリドルベーコンアンドエッグを食べて、コーヒーを手にロマンスカーへ。勉強しながら新宿に出て、大江戸線に乗り換えて更に勉強。日曜朝の電車は空いていて、ずっと座って勉強することができた。

晴海は以前仕事でトリトンスクエアに行ったことがあったので、それほど迷わず到着。会場内は…年齢層は大学生から定年後っぽい人まで様々だが…男性だけ。うーむ。大学時代(女性が1割)よりひどい。

午前は法規。9:30 開始、10:30 途中退出可能時刻、12:00 終了。自分の場合は全問解き終わって10:00、見直ししても 10:16 で、時間余りまくり。工学と違って、余った時間を使ったところで覚えてないものは出てこないので、途中退出可能時刻になって即退出。ほかの多くの受験生も即退出だった。

午後に備えて腹ごしらえ。トリトンスクエアのレストランは11:00営業開始だし、あまりにたくさん食べると午後の試験中に眠気を催す可能性があるなと思ったので、サブウェイでサンドイッチ。そのあと外のベンチで勉強するも、お尻が痛くなったので、サンマルクカフェに移動してコーヒーを飲みながら工学の復習。

午後の工学は、13:00 開始、13:30 途中退出可能、15:00 終了。全問解き終わって 13:37、見直し(計算し直し)が終わったのが 13:55 だった。ここで退出したが、ほとんどの受験者はまだ残っていた(たぶん3人目くらいで出た)。

ちなみに、法規の試験が始まってすぐに受験票の確認があるのだが、そこで「写真がよくないですよ」と指摘されてしまった。ちょっと人物が大きすぎたらしい。ほかの多くの受験者も同様に指摘されていた。いきなり「写真ダメ」と言われて動揺した人が、もしかしたらいたかもしれない。私は会社生活によっていい意味で図々しくなっているので、試験後に試験監督さんに「どこがまずいでしょうか、人物を小さくしたほうがいいということですか?」とか聞きまくり、二人で写真撮影例が載っているポスターを見た結果、結局「まぁ問題ないと思いますけど最後は総務省さんがどう判断するかなので…」と言われた。

解答発表

試験2日後の火曜日16時ごろに、日本無線協会のページに解答が掲載された。問題用紙を持ち帰ることができるので、即自己採点した結果は、

  • 法規: 144点(満点150、合格基準105)
  • 工学: 120点(満点125、合格基準87)

だった。

合格発表

4/27 に葉書が発送され、4/28 の16時に webページ で合格が発表される。我が家は晴海から比較的近いので、4/28 11時半ごろに葉書が到着して、web より先に合格を知ることができた。web ページを見ると、ものすごくおおざっぱに言って合格率50%弱くらいの模様。

無線従事者免許証の申請

自己採点で「まず合格だろう」とわかっていたので、切手 (84円+320円) と収入印紙1750円分は事前に郵便局で購入済み。合格の葉書到着後、切手・印紙を貼って申請日と合格日を記入し、速攻で郵便局へ行き、簡易書留で関東総合通信局へ郵送した *4

申請書の作成は、総務省|関東総合通信局|無線従事者の免許手続き というページを参考にしつつ、書類は 総務省 電波利用ホームページ|申請書等のダウンロード|無線従事者免許申請書の様式(ダウンロード) からダウンロード。「写真の裏には資格名と氏名を記入すること」みたいな内容や、部課レベルの宛先は、関東総合通信局のページにしか載っていないので注意。また、申請書は直接スキャンするらしく、変に拡大・縮小するなという注意があるので守る必要がある。Mac の「プレビュー」で印刷するときは「拡大率100%」と手動で指定しないとおかしくなった。

このあとの予定

  • 無線従事者免許証が来る (1-4週間後)
  • 無線局の変更申請で、10MHz と 14MHz を追加する (3週間くらい?)

最速でも2-3ヶ月かかると思われるので、気長にいこうと思う。

参考になるサイト

過去問・勉強

個別の資料

2アマに合格するためだけなら、ここに挙げたサイトの内容まで知っておく必要はないと思う。単なる知的好奇心。

解説・受験記

*1:ほかにも「JARDの講習会で講師になるための条件が違う」という差もあるが、無線局を操作する点に関しては空中線電力だけが相違点。

*2:当時は試験が平日しかやっていなかったので、中学校を休んで名古屋で受験した。

*3:最近は1アマ和文モールスがないので、多くの人が2アマを経ずに直接1アマを取りに行っていると思われる。

*4:前日に会社の用事で九段下を通ったので、これが1日早ければ直接持ち込めた(直接持ち込み可能なことは電話で確認済み)。

FT8 をやってみた

Motivation

最近 FT8 というのが流行っているらしい。なんでも、小出力でもかなり遠くと交信できるとか。CW並みかそれ以上にノイズに強いらしいので、やってみようと思う。

FT8 を理解する

新デジタルモードFT8を運用しよう を読むと多少わかる。多少…。自分の理解したところを下記に列挙する。

  • 符号化した可聴周波の信号をUSB (Upper Side Band; J3E) 形式で変調する(通常LSBを使う7MHz帯でもUSBを使う)
  • 符号化はPCで行い、PCのサウンド出力(つまりスピーカー端子)を無線機のサウンド入力(つまりマイク端子)に信号を流し込んで、無線機に変調してもらう。受信はその逆の経路。
  • なので、最低限の I/F としては無線機とPCのスピーカー入出力・マイク入出力をつなげばよい
  • とはいえそれはケーブルが2本になったりゲイン調整しなければいけなかったりと面倒なので、最近の無線機であれば USB (Universal Serial Bus) ケーブル1本を繋げば使えるようになっている(無線機側にサウンドカード相当の機能が乗っているようだ)

設定

無線機 (IC-705)

事前準備として、IC-705のファームウェアを更新して FT8 プロファイルを選べるようにする。プロファイルを設定しなくても交信はできるはずだが、AFフィルタの幅が最適化されていたり、自動的に USB-D モードに切り替わったりと便利なので、更新しておいたほうがよい。

  1. USBケーブルを接続する
  2. 電源を入れる
  3. アンテナをチューニングする(私の場合は ATU-100 の電源を入れてRTTY モードにし、PTT を押してチューニング)
  4. プロファイルを FT8 に切り替える

以降の操作は、周波数の変更も含めて PC (mac) 側で行う。

PC (MacBook Pro 13インチ 2020)

事前準備として、WSJT-X と、IC-705 に接続するための SiliconLab USB ドライバ を導入しておく。

以下の設定作業は、実際に無線機が接続された状態でないと通信エラーになってしまうので、上記の無線機側の設定を行ってから実施する。

  1. 7MHz 国内 FT8 をやりたい場合は、7041kHz を周波数として追加する(こちらのページ を参照)
  2. 無線機設定を行う。IC-705 の設定例は下図の通り。「シリアルポート」欄はUSBドライバのインストールごとに違うので、通信エラーがでないものを選択する。
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    WSJT-X の無線機設定
  3. オーディオ設定で、入出力を USB codec にする
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    オーディオ設定

交信の方法

左側中央の "40m" となっている部分が周波数帯の選択になっているので、7MHz 帯なら "40m" を選択したあと、CQ出してる行をダブルクリックすると右側で自分の交信が自動的に進む。自分がCQを出したいときは、右下の "Tx6" のところにあるラジオボタンを選択して「送信許可」を押すと CQ が出されるので、誰かが応答してくれたらあとは交信が自動的に進む。

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左側に他人の交信が見えるので、CQ出してる行をダブルクリックすると右側で自分の交信が進む

PSK Reporter を自分のコールサインで検索すると、自分の電波がどこまで飛んでいるかがわかる。

交信してみた

  • 7MHz 5W: 西は広島・愛媛、北は北海道まで飛んでた。
  • 7MHz 10W: 西は福岡、北は網走まで飛んでいた。飛びっぷりは5Wとあまり変わらないようだ。
  • 430MHz 10W: 所沢まで飛んでいた。FM ではここまで届かないので、さすが FT8 といったところ。

所感

  • どうにも「交信」という感じはしない、むしろ物理実験をしている気分
  • 「QSL 交換どうする?」とか会話できないので、自分は eQSL, LoTW だけやってる
  • アンテナやリグの性能チェックにはうってつけ。アンテナの位置・偏波、リグの出力をいろいろ変えて、飛び具合をチェックするのにちょうどいい。特に自分はアンテナがほぼ自作なので、その性能チェックには大変に向いている。
  • 一言も会話しなくてよくて、かつ交信がほぼ全自動なので、交信途中に子供に邪魔されても大丈夫。子育て世代向きだと思う。

ATU-100 の組み立てと実験

概要

N7DDC さんが設計した ATU-100 をキットから組み立てて、自作した 1:9 UNUN を噛ませて10mのロングワイヤーを張ったところ、3.5MHz-28MHz まで同調させることができ、7MHz 帯についてはバンド内全域で SWR < 1.5 を実現できた。

Motivation

Gawant 7 は素晴らしいアンテナだが、 SWR < 1.5 となる範囲がせいぜい 40kHz くらいしかない上に、バリコンに指が当たっただけで数十kHz も同調が移動するので、ベランダに Gawant 7 を置いて室内に無線機を置いて運用する、というのがなかなか難しい。以前の記事 で書いた通り、我が家は環境的にロングワイヤーを張れる環境にあるのでアンテナチューナーを使うのが第一の代替案になるが、市販のアンテナチューナーは高い。AH-4 は4万円近くする上に品切れだし、IC-705専用の AH-705 も3万円する上に品切れ。そんな状態で、噂の ATU-100 がキットで 5200 円であることを知り、これを作ってやろうと思い至った。

作るもの

  • ATU-100
  • 9:1 UNUN: ロングワイヤーのインピーダンスは450-1000オームくらいあるらしいが、ATU-100 はインダクタンスが足りないからロングワイヤーは無理かも というレビューがあったのと、450オームのロングワイヤーと50オームの同軸ケーブルを直接つなぐと同軸からの不要輻射が大きくなりそうなので、ワイヤー直下で50オームにインピーダンス変換する。
  • 無線機 (IC-705) と ATU-100 を接続するケーブル: 買ったキットは無線機・アンテナとの接続端子が SMAレセプタクルだったので、これをそのまま使うかM型レセプタクルを買うか迷って、そのまま使うことに決定。IC-705 は BNC レセプタクルなので必要なケーブルは BNCP-SMAP ケーブルになるが、そんなケーブルは市販していないので自分で作ることにする。ATU-100 とアンテナをつなぐMP-SMAP ケーブルは、ハンディ機用にすでに持っているのでそれを流用する。

全体図を下に示す。

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全体図

材料

特記なき材料は 千石電商秋葉原本店 で購入。会社の健康診断で東京に出ざるを得なくなったついでに寄り道した。

ATU-100 用

  • ATU-100: Amazon で購入。もっと安い出品者もいたが、レビューが多く付いていたこれを購入
  • ダストコア T68-2: 上記のレビュー で、キット内のコアが本物ではなさそう…というものがあったので、念のため正規のものを購入。
  • UEW (ポリウレタン銅線) 0.8mm コアに銅線巻いていたら足りなくなり…というのを2回くらいしたら、キット内の銅線が足りなくなったので追加購入。後述する 1:9 UNUN にも使用
  • AWG24 撚り線: スイッチ類の配線に使用
  • 2ピンコネクタ付きケーブル: 電源ジャックへの配線用に使用
  • その他の資材: 細めのはんだ、はんだ吸い取り線
  • USB PD トリガーケーブル (15V): ヨドバシにて購入したATUへの電源供給用ケーブル。10-15V で 400mA 引き出せればよいので、5V USB から 12V へ昇圧するケーブルを使おうかと思ったが、レビューを見て不安になり、USB PD 電源から 15V を引き出すことにした。なお最新の USB PD 規格には12Vが存在しないので、12V用を買ってしまうとバッテリによっては12V引き出せない(ということは5Vになってしまう)可能性があるので注意。

1:9 UNUN 用

銅線は ATU-100 用に買った 0.8mm UEW を流用。Q が少し悪化するかもしれないけど、なんせ10m もあるので…。

接続ケーブル

ついでに、こちらの記事 で紹介されていた、温度調節機能付き(温調)こて PX-335 も購入。

組み立て

あまり撮影していないけど、組み立ての風景はこちら。過半の時間をコイル巻きに費やすことになる。

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コイル巻き職人の朝は早い

はんだ付けはそれほど難しくない。お約束で、部品は低いものから高いものへはんだ付けする。温調こてはリレーみたいなふつうの部品を連続して取り付けるには非常に向いていた。しかし、以下の2点は注意。

  1. UEW 線をはんだ付けするときは温調こてを使わない方がいい: 350度で調整されると被覆のポリウレタンが溶けなくてはんだが乗らないのだ。ふつうの 40W/60W こてをオーバーヒート気味にしたら被覆は簡単に溶けたので、最初からこれを使えばよかった。
  2. トロイダルコアに巻いたコイルはリレーより後にはんだ付けすること: リレーとコイルが干渉したときはコイルの巻線でしか調整できないので、先にコイルをはんだ付けしてしまうとコイルをはめられなくなる恐れがある。

実験

Gawant 7

完成したのが夕方で、ワイヤーを張るのは難しい時間だったので、まずは Gawant 7 の微調整に使ってみた。IC-705 には USB PD 電源を接続して10W出力に設定し、Tune に必要な電力を供給できるようにしてやってみたが、うまく Tune がなされない。ディスプレイをみたところ、本来10W出力されるはずなのに、ATU には4W しか来ていない。どうやら IC-705 は SWR が高すぎるとファイナル保護のために出力を絞るらしい。

そこで実験は中断し、マニュアルの記述に従って、最終段のタンデムマッチの巻数を 10:1 から 5:1 に変更した。こうすると最大入力が150Wから40Wに低下するが、持っている無線機は IC-705 (10W) なので問題はない。また、本来はこの変更に伴って PIC の定数を書き換える必要があるのだが、書き込み用のツールを持っていないのでそこは省略する(画面に表示される入力電力値がおかしくなるだけで動作に支障はない)。

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タンデムマッチ(上部の SMA レセプタクルに挟まれた、コアに黄色の導線が巻かれている部品)を変更

9m ワイヤ + 9:1 UNUN

翌朝、今度はロングワイヤーで実験。ロングワイヤーは目的バンドの 1/2 波長になると同調しないので、JO3GBDさんの表 を参考にして 9m をチョイス。カウンターポイズには CQオームのオリジナルラジアルケーブルセット を使った。まだ3アマなので、電波を出せる 3.5/7/18/21/24/28/50 を確認してみる。50MHz 帯はちょっと厳しめの模様。

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3.5MHz はちょっと高め、ほかは同調取れる

9m ワイヤのみ

ここで 1:9 UNUN は必要なのかをチェック。UNUN を入れた方が多少 SWR はよくなるので、ないよりは入れた方がよさそう…なんだけど、思ったほどの効果はないような? 1:9(巻線比 1:3)じゃなくて 1:4 (巻線比 1:2)くらいのほうがいいのかもしれない、NanoVNA 買うかー? とりあえずこの後の実験は UNUN を入れた状態で続行。

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(左)UNUNあり(右)UNUN なし

10m ワイヤ + 9:1 UNUN

7MHz があまりよくなかったので、ワイヤーを 7MHz の 1/4 波長である 10m に延ばした。これがローバンドにはてきめんに効いて、3.5/7 MHz 帯は非常に良好な SWR になった。ただし、18MHz 帯は tune 不能になってしまった。 18MHz 帯の 1/2 波長は 8.3m なので、10m で悪くなることは(計算上)ないはずだけど、実験的にはダメだった。

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広域で SWR < 1.5 を実現、ただし 18MHz 帯は tune 不能

まとめ・今後の課題

  • 成果: 10m のワイヤーを張ると再チューン不要なくらい広域で SWR < 1.5 を実現できるので ATU-100 おすすめ
  • 課題1: なんか AUTO/BYPASS ボタンの反応がおかしい。スイッチが安物すぎなのか、回り込みが発生しているのか?
  • 課題2: ATU-100と UNUN には、ちゃんとケースを用意してあげよう(台所から使い古しの保存容器をもらって作ることになりました)

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実験風景(屋内)

参考情報

先人の皆さんありがとうございます、

設計図

ATU-100 キット作成

UNUN

JH4VAJ さんによる UNUN 試行錯誤

組み立て方

参考

IC-705 との接続

アマチュア無線のロギングシステムを構築したときの設定メモ

概要

昨年10月の再開以来、無線のログには airhamlog を使わせてもらっていたが、eQSL との連携に難があったので、一念発起して rumlogNG (以下単に rumlog と表記)に変更した。ついでに LoTW にも登録して、更新記録の同期をとれるようにした。iOS 対応には ramlogNG と同じ作者による rumlogNG2go を使い、iCloud sync したログを更新後に MacBook 上の rumlog で logbook に移し替えることにした。

この記事は自分の備忘録用であり、主に移動運用したときにどうやって rumlog/eSQL/LoTW を連携させるのかをメモする。

rumlog と eQSL/LoTW における logbook/account/所在地の関係

先に結論を書くと、以下のような関係にしておくとよい。

  • rumlog では、移動地ごとに別の logbook を作る
  • eQSL では、移動地ごとに別のアカウントを作る(参考: eQSL.cc、移動局用にアカウントを追加)
  • LoTW では、移動地ごとにに別の「局の所在地」を作る
  • eQSL/LoTW はグリッドロケーター・JCC (JCG) を設定可能なので、市郡ごと・場所ごとにアカウント(所在地)を別に作る

というわけで、例えば私の最近の例だと、logbook/eQSLアカウント/LoTW局所在地は以下のようにした。

  • home
  • 1010_kusadoyama (町田市の草戸山)
  • 110113_takaosan (横浜市の高尾山)

草戸山の logbook の設定を例にすると、まず rumlog における設定はこのようになる。

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注意すべきなのは eQSL で、ここの "User name" には、ポータブル表記も含めたコールサイン (JK1CQY/1) を設定しておく必要がある。さもないと "Location nick" に書いたアカウントにアップロードされず、home 用のアカウントにログがアップロードされてしまう。eQSL のアカウント設定(My Profile)の中で、rumlog に設定すべき値は以下の赤枠内の情報になる。

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rumlog の設定画面に戻ってLoTW 側について。LoTW の Location は "Ask for" に設定しておけば、実際のアップロード時に LoTW のサポートプログラム TQSL がダイアログを開いて、局の所在地がどこなのか聞いてくれる。そこで、TSQL では事前に必要な「局の所在地」を定義しておく。

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Gawant 7 をロングワイヤー化する

要約

Gawant 7 は、電圧給電でラジアル不要、という、気軽に HF 帯に出るには最適なアンテナだが、ロッドアンテナの長さは 150cm であり、7MHz の波長40mから考えると相当の短縮率である。気軽に使える HF 帯向けのアンテナとしては Gawant のほかに RHM8bHFJ-350M がよく使われており、特に前者はロッドアンテナの代わりにロングワイヤーを取り付けることで性能を向上させられることが実験的に示されている(例1例2)。そこで、Gawant 7 でもロングワイヤー化によって、送受信性能の向上、対応する周波数帯の拡張、SWR < 1.5 となる周波数幅を拡げられないか実験したところ、ロングワイヤー化しても増えるのはノイズだけで、SWR はかえって悪化することがわかった。

ロングワイヤーを作る

同じように既存アンテナをワイヤーで拡張しようとしている方 を発見し、そこに書かれている電線をそのまま使わせていただくことにする。千石電商同じもの を売っていたので、これとミノムシクリップを購入。10m なのにすごくコンパクトでびっくり(細いので)。いろいろな長さで実験したいので、10m を [4m, 3m, 2m, 1m] に分割し、間をギボシでつなぐ。通常、ギボシは半田付けはせずに圧着するだけだが、この電線は非常に細いので、予め 2mm くらいの長さにした熱収縮チューブを通して半田付けし、被覆と熱収縮チューブをまとめて圧着することで外れにくくしてみた。

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半田付けしてから圧着する

実験しようとしてみたら…

実験前日、Gawant 7 を車に積んで子連れで公園に行ったが、なぜか全然電波を掴んでくれない。翌日、実験しようとしてもやっぱり全然マッチングしない。おかしいなと思って根元のボックスを開けてみたら…

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BNC コネクタの芯線側につながるべき黄色のケーブルが外れていた

芯線が外れてる。振動で外れたのだろうか? ケーブルの長さに余裕がないので、1.5mm くらい被覆を剥き直して半田付けしたところ、無事に電波を掴めるようになった。手作りだからこういうこともあろうか。

ワイヤーの設置

こういう配置にした。

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ワイヤーを何で支えようかいろいろ考えていたが、大した重量もないのに移動運用用のアルミポール(例えばコメット CP-45)を買うととても高いので、今回はよく小売店で「セール!!」とかいう旗を上げるのに使うのぼりポールとその土台を使うことにした。モノタロウで 5mのぼりポールのぼりポール用土台 を購入。安い! 合わせて2000円。安い。素材は書いてなかったけど、到着してから重みなどを見る限り、ただのスチールを白く塗装したものだと思う。確かに小売店ではこれを何十本も購入するのだから、万単位の価格では困るだろう。

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(左)端点はギボシに熱収縮チューブ・自己融着テープ・タイバンドという組み合わせ(右)土台、斜めにもさせるおもしろいやつ

実験

Gawant 7 にミノムシクリップを付けて実験してみた!

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Gawant 7 のロッドを最小にしてミノムシクリップでワイヤーを追加

10m 延長したとき

同調点は 4071kHz くらいが下限で、3.5MHz 帯に出るのは厳しそう。また、写真にはないが、この状態で 7MHz 帯に持って行くと逆に同調しない(バリコンを最も高周波向けに設定してもなお同調点を外れる)。

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IC-705 のバンドスコープで見ると、下限400kHz くらい

7m 延長したとき

7MHz 帯では、SWR が 3 以下になる点がまったくなくなってしまった。

6m 延長したとき

7MHz 帯では、SWR が 3 以下になる点はあるものの、1.5 以下にはならなくなった。

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6m延長時の SWR 測定結果。なんとか3以下にはなるが 1.5 以下にはならなかった

4m 延長したとき

7MHz 帯では、素のロッドアンテナとほぼ同じ幅でSWR が 1.5 以下に落ちた。4m だと庭先にのぼりポールを立てる必要はなく、ベランダの端と端で十分張ることができる。受信性能は多少上がっている気がする、程度で、わざわざのぼりポールを設営する必要性を感じない。

結論

Gawant 7 は素のまま使うのが、その気軽さを享受できるという意味でも一番いい。今度 RHM8b を買ったらそちらでロングワイヤーの実験をしてみたい。

TH-D74 用 2.5mm → 3.5mm 変換ケーブルの作成と Ft8 受信

概要

TH-D74(ケンウッドのハンディ機)のスピーカー端子は「2.5mm ステレオ端子からモノラル出力(+リモコン制御)」という特殊仕様になっているため、そのままでは PC の音声入力に信号を送り込むことができない。そこで 3.5mm ステレオケーブルの一方のプラグを切り落とし、2.5mm ステレオ端子からのモノラル出力を 3.5mm のステレオ端子に分配できるケーブルを自作した。これを使ってアマチュア無線の最新のデータ通信形式 FT8 の信号をデコードしたところ、朝9時の 7MHz 帯で、カタールアゼルバイジャンの局を発見した。

目的

ハンディ機のスピーカーからの音声を PC に流し込むことにより、以下の2つを実現する。

  1. 最近流行っているらしい FT8 を受信(デコード)してみる
  2. PC から Bluetoothバイスに飛ばす

1はともかく2については「TH-D74は最初から HFP に対応しているのに、なぜそんなことをする必要があるのか?」と思われる向きもあるかもしれない。しかし TH-D74 の Bluetooth はなぜか到達距離がものすごく短い。説明書記載の公式なもので「数m」とされていて、実際に同じ部屋でも 3-4m 離れるとリンクが切れることがある。144/430 MHz 帯と 2.4GHz 帯の干渉対策で、意図してこの通信距離になっているような気がするが、それにしたって短すぎて不便を感じる。そこで、こういうケーブルを作っておけば、おそらく Class 1 であろう PC 本体と無線機を屋根裏部屋に置き、1F/2F の Bluetoothバイスまで飛ばすことも可能ではないかという目論見をしているのである。そのうち MacBook Pro にループバックデバイス機能を持つソフトウェアを導入して実験してみようと思う。

製作

特に難しいところはない。

  1. 千石電商で、両端 3.5mm ステレオミニプラグのケーブル と、2.5mm ステレオミニミニプラグ を買う
  2. JN3QCI さんのページ を参考にして結線を決定: 3.5mm 側の1番・2番を、2.5mm 側の1番に両方とも接続し、3番と3番 (GND) を接続する
  3. 3.5mm ステレオミニプラグの片方を切断する
  4. 結線通りに半田付け

結線図は下記の通り。今回は PTT スイッチは付けていない。 (PTTロック欲しいなぁーと思っているので、そのうち作るかもしれない)

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結線図

半田付け結果はこちら。本当はちゃんとケーブルを噛み込んだほうがいいんだけど、剥き直すのが面倒だったのでこのままで。

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半田付け

FT8 をやってみた

TH-D74 を AM モードに設定して周波数は 7.074MHz にし、製作したケーブルの 2.5mm 側を TH-D74 に接続する。もう一方の3.5mm プラグは、引き出しの中で眠っていた USB オーディオインターフェースのマイク入力端子に接続し、これを USB-C ハブ経由で MacBook Pro に接続する。最後に WSJT-X の macOS 版 を起動して、入力として USB オーディオを指定してみたところ、なんとカタールアゼルバイジャンの局が出した信号をデコードすることに成功した! こりゃすごい、FT8 が流行る理由がわかる気がした。