ATU-100 の組み立てと実験

概要

N7DDC さんが設計した ATU-100 をキットから組み立てて、自作した 1:9 UNUN を噛ませて10mのロングワイヤーを張ったところ、3.5MHz-28MHz まで同調させることができ、7MHz 帯についてはバンド内全域で SWR < 1.5 を実現できた。

Motivation

Gawant 7 は素晴らしいアンテナだが、 SWR < 1.5 となる範囲がせいぜい 40kHz くらいしかない上に、バリコンに指が当たっただけで数十kHz も同調が移動するので、ベランダに Gawant 7 を置いて室内に無線機を置いて運用する、というのがなかなか難しい。以前の記事 で書いた通り、我が家は環境的にロングワイヤーを張れる環境にあるのでアンテナチューナーを使うのが第一の代替案になるが、市販のアンテナチューナーは高い。AH-4 は4万円近くする上に品切れだし、IC-705専用の AH-705 も3万円する上に品切れ。そんな状態で、噂の ATU-100 がキットで 5200 円であることを知り、これを作ってやろうと思い至った。

作るもの

  • ATU-100
  • 9:1 UNUN: ロングワイヤーのインピーダンスは450-1000オームくらいあるらしいが、ATU-100 はインダクタンスが足りないからロングワイヤーは無理かも というレビューがあったのと、450オームのロングワイヤーと50オームの同軸ケーブルを直接つなぐと同軸からの不要輻射が大きくなりそうなので、ワイヤー直下で50オームにインピーダンス変換する。
  • 無線機 (IC-705) と ATU-100 を接続するケーブル: 買ったキットは無線機・アンテナとの接続端子が SMAレセプタクルだったので、これをそのまま使うかM型レセプタクルを買うか迷って、そのまま使うことに決定。IC-705 は BNC レセプタクルなので必要なケーブルは BNCP-SMAP ケーブルになるが、そんなケーブルは市販していないので自分で作ることにする。ATU-100 とアンテナをつなぐMP-SMAP ケーブルは、ハンディ機用にすでに持っているのでそれを流用する。

全体図を下に示す。

f:id:tmishina:20210314132947p:plain
全体図

材料

特記なき材料は 千石電商秋葉原本店 で購入。会社の健康診断で東京に出ざるを得なくなったついでに寄り道した。

ATU-100 用

  • ATU-100: Amazon で購入。もっと安い出品者もいたが、レビューが多く付いていたこれを購入
  • ダストコア T68-2: 上記のレビュー で、キット内のコアが本物ではなさそう…というものがあったので、念のため正規のものを購入。
  • UEW (ポリウレタン銅線) 0.8mm コアに銅線巻いていたら足りなくなり…というのを2回くらいしたら、キット内の銅線が足りなくなったので追加購入。後述する 1:9 UNUN にも使用
  • AWG24 撚り線: スイッチ類の配線に使用
  • 2ピンコネクタ付きケーブル: 電源ジャックへの配線用に使用
  • その他の資材: 細めのはんだ、はんだ吸い取り線
  • USB PD トリガーケーブル (15V): ヨドバシにて購入したATUへの電源供給用ケーブル。10-15V で 400mA 引き出せればよいので、5V USB から 12V へ昇圧するケーブルを使おうかと思ったが、レビューを見て不安になり、USB PD 電源から 15V を引き出すことにした。なお最新の USB PD 規格には12Vが存在しないので、12V用を買ってしまうとバッテリによっては12V引き出せない(ということは5Vになってしまう)可能性があるので注意。

1:9 UNUN 用

銅線は ATU-100 用に買った 0.8mm UEW を流用。Q が少し悪化するかもしれないけど、なんせ10m もあるので…。

接続ケーブル

ついでに、こちらの記事 で紹介されていた、温度調節機能付き(温調)こて PX-335 も購入。

組み立て

あまり撮影していないけど、組み立ての風景はこちら。過半の時間をコイル巻きに費やすことになる。

f:id:tmishina:20210314133303j:plainf:id:tmishina:20210314133312j:plainf:id:tmishina:20210314133323j:plainf:id:tmishina:20210314133336j:plain
コイル巻き職人の朝は早い

はんだ付けはそれほど難しくない。お約束で、部品は低いものから高いものへはんだ付けする。温調こてはリレーみたいなふつうの部品を連続して取り付けるには非常に向いていた。しかし、以下の2点は注意。

  1. UEW 線をはんだ付けするときは温調こてを使わない方がいい: 350度で調整されると被覆のポリウレタンが溶けなくてはんだが乗らないのだ。ふつうの 40W/60W こてをオーバーヒート気味にしたら被覆は簡単に溶けたので、最初からこれを使えばよかった。
  2. トロイダルコアに巻いたコイルはリレーより後にはんだ付けすること: リレーとコイルが干渉したときはコイルの巻線でしか調整できないので、先にコイルをはんだ付けしてしまうとコイルをはめられなくなる恐れがある。

実験

Gawant 7

完成したのが夕方で、ワイヤーを張るのは難しい時間だったので、まずは Gawant 7 の微調整に使ってみた。IC-705 には USB PD 電源を接続して10W出力に設定し、Tune に必要な電力を供給できるようにしてやってみたが、うまく Tune がなされない。ディスプレイをみたところ、本来10W出力されるはずなのに、ATU には4W しか来ていない。どうやら IC-705 は SWR が高すぎるとファイナル保護のために出力を絞るらしい。

そこで実験は中断し、マニュアルの記述に従って、最終段のタンデムマッチの巻数を 10:1 から 5:1 に変更した。こうすると最大入力が150Wから40Wに低下するが、持っている無線機は IC-705 (10W) なので問題はない。また、本来はこの変更に伴って PIC の定数を書き換える必要があるのだが、書き込み用のツールを持っていないのでそこは省略する(画面に表示される入力電力値がおかしくなるだけで動作に支障はない)。

f:id:tmishina:20210314134706j:plain
タンデムマッチ(上部の SMA レセプタクルに挟まれた、コアに黄色の導線が巻かれている部品)を変更

9m ワイヤ + 9:1 UNUN

翌朝、今度はロングワイヤーで実験。ロングワイヤーは目的バンドの 1/2 波長になると同調しないので、JO3GBDさんの表 を参考にして 9m をチョイス。カウンターポイズには CQオームのオリジナルラジアルケーブルセット を使った。まだ3アマなので、電波を出せる 3.5/7/18/21/24/28/50 を確認してみる。50MHz 帯はちょっと厳しめの模様。

f:id:tmishina:20210314135057j:plainf:id:tmishina:20210314135048j:plainf:id:tmishina:20210314135107j:plainf:id:tmishina:20210314135117j:plain
3.5MHz はちょっと高め、ほかは同調取れる

9m ワイヤのみ

ここで 1:9 UNUN は必要なのかをチェック。UNUN を入れた方が多少 SWR はよくなるので、ないよりは入れた方がよさそう…なんだけど、思ったほどの効果はないような? 1:9(巻線比 1:3)じゃなくて 1:4 (巻線比 1:2)くらいのほうがいいのかもしれない、NanoVNA 買うかー? とりあえずこの後の実験は UNUN を入れた状態で続行。

f:id:tmishina:20210314135256j:plainf:id:tmishina:20210314135307j:plain
(左)UNUNあり(右)UNUN なし

10m ワイヤ + 9:1 UNUN

7MHz があまりよくなかったので、ワイヤーを 7MHz の 1/4 波長である 10m に延ばした。これがローバンドにはてきめんに効いて、3.5/7 MHz 帯は非常に良好な SWR になった。ただし、18MHz 帯は tune 不能になってしまった。 18MHz 帯の 1/2 波長は 8.3m なので、10m で悪くなることは(計算上)ないはずだけど、実験的にはダメだった。

f:id:tmishina:20210314135853j:plainf:id:tmishina:20210314135923j:plainf:id:tmishina:20210314135904j:plainf:id:tmishina:20210314135913j:plain
広域で SWR < 1.5 を実現、ただし 18MHz 帯は tune 不能

まとめ・今後の課題

  • 成果: 10m のワイヤーを張ると再チューン不要なくらい広域で SWR < 1.5 を実現できるので ATU-100 おすすめ
  • 課題1: なんか AUTO/BYPASS ボタンの反応がおかしい。スイッチが安物すぎなのか、回り込みが発生しているのか?
  • 課題2: ATU-100と UNUN には、ちゃんとケースを用意してあげよう(台所から使い古しの保存容器をもらって作ることになりました)

f:id:tmishina:20210314135741j:plain
実験風景(屋内)

参考情報

先人の皆さんありがとうございます、

設計図

ATU-100 キット作成

UNUN

JH4VAJ さんによる UNUN 試行錯誤

組み立て方

参考

IC-705 との接続