125MHz 用アンテナを 145MHz 用に改造(付録: 三脚取り付け機構の改善)

概要

前回記事 末尾で書いたとおり、125MHz エアバンド用3エレ八木アンテナを、145MHz 用に改造する。ついでに、三脚への取り付け構造が「金具に荷造りひもでくくりつける」という、みっともない上に取り付け・取り外しがしにくい構造になっていたのを、鬼目ナットを埋め込んでネジ止めできるように改造した。

125MHz 用エレメントの抜去

3つのエレメントはいったんすべて抜き取る。輻射器の同軸ケーブルは半田付けを外す。抜き取るときにグリグリとやっていたら、アルミ巻線でできている反射器・導波器はぐにゃぐにゃになってしまったのでいったん廃棄する。

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(左)輻射器から同軸を外す(右)反射器・導波器は抜こうとしたらぐにゃぐにゃに

145MHz 用エレメントの作成

下記の寸法図の通り、145MHz (波長2m)になると導波器の長さが 1000mm を下回るので、今回は導波器をアルミ丸棒に変更し、反射器のみ再度アルミ巻線で作り直した。

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寸法図

上記の寸法図は紆余曲折を経ている。JAMSAT の1000円アンテナのページ145MHz の寸法図があるのだが、ほかのページには 144MHz 用の寸法図があったりして紛らわしい。更にいろいろな計算ミスが重なり、私はやってしまった…輻射器を切りすぎた。仕方ないので、マッチング部分で半田付けすることに。しかもこの位置は本来あまりよくなくて、同軸を輻射器に半田付けする際にこちらの部分にまで熱が伝わってしまい、同軸を半田付けした瞬間に「パコーン!」という音とともに半田付けが外れるという不始末。同軸→この部分、という順序で半田付けし直して、ようやく接続成功。反射器・導波器は、前回と同じく差し込むだけでできあがり。

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ヤスリで片方を斜めに削った上で半田付け

SWR 測定

SWR測定も一悶着。室内で八木アンテナを地面方向に向けて計測するも、SWR が 6 といった異様な値に。これはなんだろうと思ってふとアンテナを持ち上げると正常値に。どうやら交流100Vコンセントが間近にあったため、宅内の配線となにかしらの干渉を起こしていたらしい。コンセントから離れた場所で測定したら、今度は 144.72MHz, 145.78MHz のどちらでも SWR 1.3 程度にまで下がった(430MHz 帯に比べて帯域幅が狭いのでバンド内でほぼ一定だった)。TH-D74 は AM を出せないので 144.00MHz 近傍ではどうなのかわからないが、この分だと大して高くないだろうし、AMを出せる機種を買って試してもしSWRが高かったら、エレメント端に半田を盛って調整すればどうにかなるだろうと思う。

そして2mをワッチするも…

えーと、やっぱり誰もいませんが…利得が低すぎる? 屋根裏部屋では減衰する? チャンネル全然足りなかった昔の面影今いずこ…。

付録: 鬼目ナットによる取り付け機構の改善

435MHz 用も 145 MHz 用も、運用時は三脚にナテック NB500 を取り付けて、この器具にアンテナを乗せている。が、前回までは乗せたあとの固定に荷造りひもを使っていた。当然グラグラだし、今後 435/145 を交換するのが非常にめんどくさい。というわけで、アンテナブームに鬼目ナットを埋め込んで、ドライバーで固定・除去ができるように改造した。

NB500 にちょうどいいのが M6 サイズのネジだったので、M6 の鬼目ナットとネジを購入する。在庫の関係で、鬼目ナットは前回も使った 千石電商 で、ネジは Amazon で購入した。 取り付け方は こちらのページ を参考にさせてもらい、M6 用鬼目ナットの取り付けには 8mm 以上のドリルビットが要ることに気づいたので、近所のホームセンターで 3mm-10mm のドリルビットセットを購入。8mm のビットで2箇所に穴を空けた(現物合わせ)。

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(左)いつもの光景です(右)鬼目ナットEタイプを六角レンチで取り付け中

これを三脚に取り付けたのが下記写真。圧倒的にすっきりしていい気分。

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(左)上から見た写真(右)横から見た写真

435MHz 用6エレ八木アンテナ製作記(付録: 125MHz 用3エレ八木アンテナ)

概要

およそ四半世紀ぶりに災害対策を主目的にアマチュア無線局を再開局してみたら、昔は2エリアでも賑やかだった430MHz 帯がとても静かだった。付属アンテナよりも利得の大きな別売のハンディ用ホイップアンテナを使っても状況は変わらず、入感ギリギリの局が多い。そこで少しでも利得を稼ぐために八木アンテナを使おうと考えたが、災害対策メインなのにたくさんお金を使っては本末転倒なので、八木アンテナを自作することにした。作ってみた結果、良好なマッチングを得られた上に、ホイップアンテナではギリギリの局でも会話可能なレベルまで受信状況が改善されることを確認した。6エレにすると相当の指向性があり、おおざっぱに言って30度くらいの範囲の電波を強く受信することがわかった。

作るもの

中心周波数 435MHz の6エレ八木アンテナJAMSAT のページに載っていた500円八木アンテナの設計 を参考にして作る。ちなみに、上記記事のころと比べて銅の価格が高騰しているらしく、実際には材料費500円では作れなかった。おおざっぱに言ってブームのラワン材+アルミ丸棒500円くらい、銅丸棒が500円くらい。

準備

必要な工具・機器

  • 長さ・太さを測定する機器いろいろ: アルミ定規・直角定規・ノギスなど。
  • ドリル (例: マキタ電動ドリル): 木材にエレメントを通す穴を開けるために使う。代替手段はないので、おそらくこれが一番高い工具。
  • 3mm のドリルビット(例: このあたり): そんなに高くない。
  • ドリルガイド(後述)
  • ペンチ・金やすり・紙やすり: エレメントの切断と、切断面の面取りをするのに使う。
  • 60W はんだごて (例: goot 60W はんだごて): 銅丸棒の輻射器に同軸ケーブルを半田付けするのに使う。一般的な電子工作用のこて(20-40W)では銅を温めるのに熱量不足なので、最低でも60Wのこてが必要。
  • ニッパーもしくはリッパー: 同軸ケーブルの切断と被覆剥きに使う
  • SWR 計 (例: SX27P): できあがったアンテナが想定通りにマッチングしてるかどうかの確認に使う。マッチングがうまくとれない高 SWR 状態で使うと無線機のファイナルを壊してしまうかもしれないので、必ず測定しよう。

工具全般はホームセンター・ヨドバシ・Amazon で購入。SWR計は無線ショップ(CQオーム は地元だよ、よろしくね!) で買おうと思ったけど売り切れだったので、Amazon マーケットプレイスの無線ショップで購入。

材料

  • ラワン材(910x24x14)1本: ブーム用
  • アルミ丸棒(3mm 径で定尺 995mm のもの)3本: 反射器・導波器用
  • 銅丸棒(上に同じ)1本: 輻射器用(アルミでは半田がのらず同軸ケーブルを接続できないため、輻射器のみ銅を使用)
  • はんだ適量
  • 両端 SMA-p の同軸ケーブル: わざわざ素の同軸ケーブルと SMA-p コネクタを買ってきて半田付けするのは手間なので、これを買ってきて真ん中で切って片側だけ使う。アンテナ2本作るときは両方とも使える(実際使った)。

木材と金属棒は近所のホームセンターで購入。こういうながーいものは通販で買うと送料のほうが高くつく。両端 SMA-p のケーブルは千石電商の通販で購入。秋葉原にはまだ行けない…。

工程

エレメントを作る

まず、アルミ丸棒・銅丸棒を規定の長さ(プラス1-2mm)に切断する。ペンチで押しつぶされた切断面をやすりで面取りする(この面取りで規定の長さにする)。このエレメントはラワン材の14mmを貫くようにして差し込むので、その部分がわかるようにマーキングする。

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(左)切断直後(右)面取り後

銅丸棒は参考記事通りの場所で曲げる。ちょうどラワン材の一方が14mm厚なので、この幅部分に銅丸棒を宛がって曲げると、だいたい指示通り13mm くらいの幅で曲げられる。ここまででエレメントができあがり。

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ブーム(穴開け前)と、切断したエレメント6本を並べてみた

ラワン材に穴開けしてブームを作る

ラワン材に垂直の穴を7つ開ける(輻射器のみ2つ穴)。

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穴開けポジションはこちら

きちんと垂直がとれていないと、不格好な上にマッチングに影響すると思われるので、ドリルガイドを使う。ただし、市販のドリルガイドは4mm用が一番小さいので、何かしらの工夫が必要。

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ドリルガイドはサイズごとに交換可能な金属部品とそれを差し込むプラスチック部品からなる

最初はドリル側にメンディングテープを巻いて4mmにしてみたが、摩擦ですぐに外れてしまった。うーんどうしようと思ったが、435MHz 用はもう4mmのままで作ってしまった。このあと125MHz用を作ったときは、このツイート を参考にして、内径3mm・外径4mm のアルミパイプを買ってきて、切断→やすりがけしてガイドパイプを作った。

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アルミパイプ(内径3mmで0.5mm厚=外径4mm)

穴開け完了したブームはこちら。

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穴開け完了時のブーム

エレメントの取り付け

まず、輻射器だけをブームに挿入し、参考記事通りの場所に同軸ケーブルを半田付けする。今回使ったケーブルは 1.5D 相当の細いケーブルだったので、剥いてみたらなんと芯線も撚り線でびっくりした。ニッパーでやっていたら編線がズタズタ切れてしまったので、恥を忍んでケーブルリッパーを使って剥いた。

そして半田付け。最初に同軸側にこんもりと半田を持っておき、次にその同軸ケーブルを輻射器に押し当てながら、輻射器を半田で熱していけば、輻射器の温度が半田の融点に達したところでデロっと半田が溶けて接続される。

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半田付け完了した輻射器

輻射器ができあがればほぼアンテナは完成。導波器・反射器は規定の位置にただ差し込むだけ。これで完成!

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完成したアンテナをリグ (TH-D74) と並べてみた

使ってみた感想

  • 指向性すごい。厳密に測定していないが、だいたい30度くらいの幅で59が11になるくらいの勢い。
  • SRH771 と比べると、31くらいのが57 くらいにはなる
  • SWR は無調整状態でも433.80MHz で 1.2 以下(SX27Pの測定下限)、438.50MHz で 1.5 と、十分実用に値する数値を得られた

作ってみた感想

これを中高生のときに作れるか、というと、技術的には作れても、工具が高いので作れなかっただろうと思う。

追記: 125MHz 用も作ってみた

430MHz 帯に加えて聞こうとしたのがエアバンド。羽田を出入りする航空機の無線は(相手が上空にいるのが効くので)ホイップアンテナでも十分に聞こえるが、羽田の地上管制が聞こえない。これが残念だったので、今度は 125MHz 用(波長2.4m)のを作ってみた。435MHz 用との違いは以下の通り。

  • 参考記事にある 145MHz 用(波長2m)の設計図を流用。送信するわけではないのでマッチングはそれほど厳密でなくてもよいと考え、アバウトに各要素(エレメント長・エレメント間隔を) 2.4m/2m = 1.2倍に延長
  • ブーム長はラワン材の長さ 910mm を超えられないので3エレとする
  • エアバンドに飽きたときに備えて 145MHz 用のエレメント穴もついでに開けておく(切断・半田付けと違って穴開けは屋外での大規模作業が必要なので二度手間は避けたい)
  • 全エレメントが長さ 1m (995mm) を超えてしまって定尺のアルミ丸棒・銅丸棒を使うことができないため、以下のように対処
    • 輻射器は定尺の銅丸棒2本の端を斜めにヤスリがけした上で半田付けして連結し、熱収縮チューブで覆って補強
    • 反射器・導波器は園芸用アルミ線(3mm)を必要な長さに切断し、コロコロと転がしてだいたい直線にして使用

組み立ててみたのがこちら。

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(上)125MHz 用(下)435MHz 用

まず、とにかく大きくて取り回しが大変。ボクのひみつ基地(天井高1400mmの小屋裏収納)では、ちょっと振り回しただけで壁・もの・天井の照明にエレメントが当たってしまう。また、ちょっと強めに振り回すと、アルミ線でできたエレメントが歪んでしまうという怖い状態に。受信感度の観点では、確かに受信できる飛行機の数は多くなったが、羽田空港ローカルの無線(クリアランス・グラウンド・タワー)までは聞こえなかった、残念。予定通り、時間のあるときに 145MHz 用に改造しようと思う。

ヘパリン類似物質の研究

今年は汗疹になりませんように…。

保湿剤「ヘパリン類似物質」を整理したものをまとめました。上のほうが油っこく、下の方がシャビシャビしているので、気温・湿度・肌の状況に応じて使い分けるとよい…といいつつ、伸びのよさと価格でいくと、ほぼヒルドイドローション1択、というのが忌憚なきところ。医師の診察を受けるのが面倒なら、性能・価格の面でキュレルローションがおすすめ。

薬品名

分類 価格(3割負担時)・内容量 コメント

ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工

処方箋医薬品以外の医療用医薬品

110円/100g 伸ばしにくい/かなりベタベタ。冬季の子供用
ヒルメナイドローション 第2類医薬品 1180円/50g マツキヨのPB、ヒルドイドより油っこい。コスパ悪い。
キュレルローション 医薬部外品 2520円/410mL 結構伸びる。量を考えると価格も安い部類。
ヒルドイドローション

処方箋医薬品以外の医療用医薬品

324円/50g 「さすが先発」と言うべき適度な伸びで、最も使いやすい。

ヘパリン類似物質ローション「日医工

処方箋医薬品以外の医療用医薬品

110円/50g ヒルドイドローションの後発のはずなのに、明らかに先発よりシャビシャビ。真夏専用?

 

余談: 手が届きにくいところにはキュレルのスプレーがおすすめ。

 

読書メモ: 応仁の乱

読書メモ: 応仁の乱

(amazonへのリンク)

応仁の乱の経過を、奈良・興福寺の大乗院門主である経覚・尋尊の2人の日記から読み解く。家督相続の基準が、実力でもなければ嫡男であることでもない中途半端な時代にあって、将軍・守護大名の勢力争いがいつまでもダラダラと続く様をよく理解できる。経覚と尋尊は性格がだいぶ違うので、応仁の乱を多面的な角度で眺められるほか、少し大仰に言えば、課題に対処しなければならないときに人が取るべき行動について大いに参考になると思う。

この本の特徴は、作家(小説家)ではなく研究者が書いた一般書、という点にあると思う。書かれている内容の根拠となる文献引用や、「xx氏はこう述べている」といった別の見方が多く示されており、内容に説得力がある(文系の人の卒論を読んだことを思い出した)。また、個人的には「階級闘争史観」というものを初めて知り、非常に興味深かった。戦後の文系インテリは左翼たるべし、みたいな空気をひしひしと感じる。あまり詳しくないが、教科書裁判で有名な旧東京教育大の家永先生などはそういう流れに沿った思想の持ち主だったのではないかと思う。 (その東京教育大の流れを汲む筑波大学は、そういう左翼研究者を放逐して筑波に移転したので、文系学部の先生に左寄りの先生は少ないように見えた)

応仁の乱の関係者と言えば、教科書的には足利義政細川勝元足利義視山名宗全で、ついでに家督争い当事者の斯波義廉・義敏、畠山義就・政長だが、この本を読むと、元凶は両畠山であることがよくわかる。実力では義就が上なのに庶子(出自が怪しい)で畠山家臣団から好かれていない、という状況が泥沼を作り出しているように見えた。人物で言えば、筒井順慶朝倉義景斎藤道三に連なる関係者(筒井順永・朝倉教景・斎藤妙椿)を見て「おおーこの人たちの流れであの人がああいう活躍をするのか」と理解できるのが、戦国時代好きにとっては面白い(義景に関しては「こんなすごいご先祖様なのに義景愚鈍すぎ」という感想)。 (余談: iOSIME はマイナー人物であろう「斯波義敏」とかまで辞書に入っていてびっくり)

というわけでサクサクと読み進めてしまったが、一般の人はこれで面白いのかどうか、ちょっとよくわからない。売れているから面白いと受け取られているのだとは思うが、古い組織(門跡寺院)や古い家(摂関・将軍・三管領)が目白押しで、結構読みにくいのではないか、と余計な心配をしてしまった。戦国時代の大河ドラマが好き、くらいであれば、楽しく読めるような気がする。

書評: 記憶力を強くする

読もうとしたきっかけはとても利己的で、「楽にものを覚えたい!」と思ったから。どうも自分の記憶力は全くもってたいしたことがない。特に妻と比較すると大分覚えが悪い。そこで、なんとかならないかと思った…というわけ。

読後の結論として、もっとも大事なことは単純かつ言い古されてきたことで、それはすなわち「努力の継続こそ最も重要」ということ。いきなり「努力の継続が重要です」とだけ胃あれてもいまいち説得力に欠けるが、この本はそれを科学的に説明していて首肯するところ多く、大変な納得感とともにこの結論を受け入れることができた。というわけで私も、この本の読後約1週間たった今、まとめとしてこの読書メモを書くことで、記憶の強化を図っているところなのであります。

印象に残って、自分の行動が変わりそうなポイントは、

  • 6時間は睡眠を取らないと、夢を見ることによる記憶の整理(レミニセンス現象)が行われなくなる→4時間睡眠+細切れ昼寝、というのはちょっと危ないかも
  • 6時間を1日で勉強するより、2時間ずつ3日かけて勉強した方が能率的
  • 復習するなら1ヶ月以内にしないと復習の意味がない

といったところでした。

レビュー: 松本ハウス「統合失調症がやってきた」

統合失調症は、統計上100人に1人は罹患している計算になる病気で、身近にいたっておかしくないはずなんだけど、自分も直接の知り合いで統合失調症の人、というのはいない(2ホップ先にはいる)。そんな統合失調症がどんな病気なのかを理解するための、とてもよいとっかかりになる本だと思う。アルバイト物語の部分などは、統合失調症と関係なく、単なる読み物としても面白い。

(以下で病気について意見を書きますが、私は医師ではないので、なんらかの決断をする場合、この文章を鵜呑みにせず、必ず精神科医に相談して下さい

この本で描写されている統合失調症の症状は、自己臭症、幻聴、幻覚、無気力感と、結構典型的だ。中学のときの「臭う」エピソードでは、お母さんからは「臭わない」、お父さんからは「人間だれしも多少は臭う」と言われているが、そういう対処は効果がない、というのがわかる。これは、周りの人間がどう対処するべきかが示唆されていると思う。統合失調症は脳内物質の乱れが強く関係しているので、思い込みとか考え方の問題ではなく、解決するためには、とにかく早めに精神科医の門を叩くべきだ。

症状の進行についても、ありがちなものだけど、それゆえにとても参考になる。自己判断で減薬してドツボにはまり、入院と薬の変更を経て、副作用はありつつも症状は寛解する、という経過を辿っている。勝手な減薬が、一時的には問題ない気がするけど結局はダメなんだ、というのが実例で理解できる。

本を読んでみて、寛解してこの文章を書いているハウス加賀谷さんは、相当賢い人なんじゃないだろうか、と感じた。因果関係が破綻していないし、想像力も豊かだ。薬の自己調節が破滅を招いたこともわかっているし、幻覚として現れたスナイパーを、『今考えると、潜在的にずっと抱えていた「この体を壊してしまいたい」という願望が、スナイパーの幻覚を生み出したのかもしれない。』と分析してみたり。統合失調症によくある連合弛緩を微塵も感じさせないのは、元々論理的な思考をするのが得意だったんだろうなぁと思わせる。

医学的な間違いを見つけられなかったのも驚きだ。医師ではない人の文章にはたいてい医学的に「?」という内容が混じるものだが、それがない(精神科医がみたらあるのかもしれない)。例えば、彼はたまたま「エビリファイ」という抗精神病薬で劇的に改善されたので、「エビリファイは効く!」と書いてしまってもおかしくないのに、ちゃんと、『間違えないでほしいのは、個人ごとに合う薬は違うということ』と書いてある。医師が校正したんだろうか? そうでなけば驚くべき正確さだと思う。

ひとつだけ気になるのは、機能不全家族であることが統合失調症の遠因になっているかのような記述順序になっていること。実際に機能不全家族だったんだとは思うし、そういう環境が発症に影響を与えないことはないだろうけど、幸せな家族にも統合失調症はやってくる可能性があるので、読み手はそこを誤解しないようにしたほうがいいと思う。

スマートデバイスを使った携帯宛メール着信通知の課題 - MW1 の残念レビュー

発端

まだガラケーであったころから、カバンやポケットにしまってある携帯に着信したメールに気づかないことがあった。なんとか着信に気付きやすい方法はないかと考えて、SONY MW1 を導入した。

MW1は、音声着信・メール着信・Twitterなど、Androidスマートフォン上で検知できるさまざまなイベントを、小さなディスプレイとイヤホンへの警告音でユーザーに通知してくれる。イヤホンを耳に入れておきさえすれば、マナーモード中だろうが繁華街の喧騒の中だろうが、状況にお構いなく通知を受け取ることができる。

この機能を実現するために、MW1は Android端末にインストールしたアプリ「スマートコネクト」との間で Bluetooth (SPPプロファイル) 接続を常に張っている。アプリ「スマートコネクト」は端末で起こったイベントを検知すると、接続相手の MW1 に向かって、SPPプロファイルというトンネルを経由して、独自プロトコルで通知データを飛ばす。SPPというローレベルなプロファイルを使うことで、母艦となるAndroidスマートフォンを選ばない、という素晴らしいメリットを享受できていて、これのおかげで私もシャープ製スマートフォンを母艦に使えている。

また、MW1は通知用のSPPプロファイルに加えて通話用のHFPプロファイルと音楽転送用のA2DPプロファイルにも対応しているので、かかってきた電話を受けたり、スマートフォンで再生している音楽(のみならず、警告音・着信音を含めた全ての音)を転送できる。更に、狭義のマルチポイント(末尾注1参照)に対応しているので、SPP/HFPA2DPの接続相手を別々にできる。例えば、スマートフォンで待ち受けしながらiPadiPod touchで音楽を聞く、といった使い方ができる。こうすれば iTunesで管理している音楽ライブラリをそのまま使うことができるので、Androidとの間でライブラリを二重管理する手間を省くことができる。その上、音楽再生・転送に必要な電力を、バッテリーに不安があるAndroidスマートフォンではなくiOSバイスに負担させることができるので、スマートフォンの電池持ちも幾分よくなる。

よいことづくめに見えたこの解決策には、しかし、罠が潜んでいた…(大仰!)。

フラフラのマルチポイント

マルチポイントにすると、落ちるのである、接続が。検索すると、同様の症状を訴える書き込みをいくつも見つけることができる(例えば ここ とか ここ とか)。一応、スマートフォン側の接続を頑張るようにチューニングされているらしく、接続が落ちるのは必ずiOSバイス側である。iOS 5が動作しているiPad第三世代とiPod touch第四世代とで同じ挙動であり、しかもシングルポイント時はiOSバイスでも落ちずにそのまま繋がっていることから、この問題はマルチポイント特有の問題であると言える。Androidバイスを2台接続したらどうなるのかは実験できていないが、音楽ライブラリの管理を考えると、私にとっては iOSバイスとのマルチポイントができなければマルチポイントそのものの価値がない。原因は判然としないが、着信通知時に音がガタガタになることがあるので、MW1のプロセッサが非力で、2つの機器とBluetoothで会話するだけの処理能力がないのではないかと推測している。

問題解決策はMW1のメリットを帳消しにする

マルチポイントがダメなら、全プロファイルをスマートフォン側と繋ぎ、シングルポイントで運用するのが解決策になる。バッテリ消費は増えるし、新しくAndroid用にライブラリ同期アプリを入れる手間がかかったが、それなりに使えることは確認できた(末尾注2参照)。

しかし、実はシングルポイントで使うなら、「メール着信に気付きたい」という要件を満たすのに、MW1は必要ないのである。なぜなら、前述したように、A2DPで接続していれば、マナーモード中でもメール着信音を含む全ての音がイヤホンから聞こえてくるからだ。つまり、ガラケーと違って、音楽ライブラリをそれなりに管理できて、通知音が全部A2DPに乗る…というAndroidスマートフォン)のメリットによって、Android用に設計されたMW1の長所がほぼ完全に消されてしまう、という皮肉な結果を招いている(残るメリットは「画面にも表示される」ことだけ)。この事実によって、マルチポイントの不具合が如何にクリティカルなのかがわかる。

結論

Androidで着信を逃さないためには、マルチポイント対応に関係なく、HFP/A2DP同時接続対応のBluetoothイヤホンがあればよく、MW1である必然性はない。シングルポイントにしか対応していない Bluebuds XBackbeat Go でもよいし、マルチポイント機能は無駄になるが XBA-BT75 でもよい。機体の小ささとハンズフリー通話時のミュート機能を考えると、Bluebuds X が一番ではないかと思って、Androidの音楽再生機能が継続的に利用可能な品質なのか、毎日の通勤で確認している。

もし相手が iPhone だったら

来年あたり、テザリングもできるようになった iPhone への機種変更も考えているので、iPhoneでの利用シーンも検討してみた。MW1はもちろん使えないが、iPhone には Bluetooth 4.0 があるので、Bluetooth G-SHOCK, Pebble, Cookoo, Proximity と言った各種スマートウォッチを使える。しかし、現時点ではこれらスマートウォッチは iPhone では真価を発揮できない状況にある。スマートウォッチでは通知の伝達に Bluetooth 4.0 から定義された ANP (Alart Notification Profile) というプロファイルを使うのだが、なんと iOS 6 は Bluetooth 4.0 対応なのにこの ANP を実装していない。スマートウォッチの製造元各社とも自前アプリに IMAP クライアント機能を実装して自力で通知を飛ばしているが、これでは Bluetooth 4.0 の省電力機能は台無しだし、通知がプッシュではなくプルになるのでリアルタイム性もない。まともに使えるようになるには、淡い期待とともに iOS7 を待つしかない。ちなみにApple は以前も「A2DPに対応したのにAVRCPに対応してない」とか、Bluetooth ドライバに関しては半端な状態の実装が常態化している。

注1

「マルチポイント」という用語は定義があいまいで、使っている人によって、以下の2通りの定義がある。

  1. 狭義のマルチポイント
    • 複数のプロファイルについて、プロファイルごとに別々の機器に同時に接続できること
    • ひとつのプロファイルにつき1台の接続
    • 例: HFP 1台+A2DP 1台で、2つのBluetooth機器を接続する
    • SONY などの音響機器メーカーの多くははこちらの定義を使っている
  2. 広義のマルチポイント
    • ひとつのプロファイルで複数の機器に接続できること
    • 例: HFPで2台の携帯に接続し、2台両方の電話着信を待ち受ける
    • Jabra, Motorola などのヘットセットメーカーの多くはこちらの意味で使用  * たいていはHFPでのマルチポイントを謳っていて、ほかのプロファイル、例えばA2DPでのマルチポイントは聞いたことがない

注2

やっぱりAndroidの音楽再生アプリはいまいちよくない。最初から入っている「Google Playミュージック」は突然再生がとまることがあるし、winampAVRCPプロファイルでのリモコン機能が効かず、ディスプレイに曲名が表示されない。