スマートデバイスを使った携帯宛メール着信通知の課題 - MW1 の残念レビュー

発端

まだガラケーであったころから、カバンやポケットにしまってある携帯に着信したメールに気づかないことがあった。なんとか着信に気付きやすい方法はないかと考えて、SONY MW1 を導入した。

MW1は、音声着信・メール着信・Twitterなど、Androidスマートフォン上で検知できるさまざまなイベントを、小さなディスプレイとイヤホンへの警告音でユーザーに通知してくれる。イヤホンを耳に入れておきさえすれば、マナーモード中だろうが繁華街の喧騒の中だろうが、状況にお構いなく通知を受け取ることができる。

この機能を実現するために、MW1は Android端末にインストールしたアプリ「スマートコネクト」との間で Bluetooth (SPPプロファイル) 接続を常に張っている。アプリ「スマートコネクト」は端末で起こったイベントを検知すると、接続相手の MW1 に向かって、SPPプロファイルというトンネルを経由して、独自プロトコルで通知データを飛ばす。SPPというローレベルなプロファイルを使うことで、母艦となるAndroidスマートフォンを選ばない、という素晴らしいメリットを享受できていて、これのおかげで私もシャープ製スマートフォンを母艦に使えている。

また、MW1は通知用のSPPプロファイルに加えて通話用のHFPプロファイルと音楽転送用のA2DPプロファイルにも対応しているので、かかってきた電話を受けたり、スマートフォンで再生している音楽(のみならず、警告音・着信音を含めた全ての音)を転送できる。更に、狭義のマルチポイント(末尾注1参照)に対応しているので、SPP/HFPA2DPの接続相手を別々にできる。例えば、スマートフォンで待ち受けしながらiPadiPod touchで音楽を聞く、といった使い方ができる。こうすれば iTunesで管理している音楽ライブラリをそのまま使うことができるので、Androidとの間でライブラリを二重管理する手間を省くことができる。その上、音楽再生・転送に必要な電力を、バッテリーに不安があるAndroidスマートフォンではなくiOSバイスに負担させることができるので、スマートフォンの電池持ちも幾分よくなる。

よいことづくめに見えたこの解決策には、しかし、罠が潜んでいた…(大仰!)。

フラフラのマルチポイント

マルチポイントにすると、落ちるのである、接続が。検索すると、同様の症状を訴える書き込みをいくつも見つけることができる(例えば ここ とか ここ とか)。一応、スマートフォン側の接続を頑張るようにチューニングされているらしく、接続が落ちるのは必ずiOSバイス側である。iOS 5が動作しているiPad第三世代とiPod touch第四世代とで同じ挙動であり、しかもシングルポイント時はiOSバイスでも落ちずにそのまま繋がっていることから、この問題はマルチポイント特有の問題であると言える。Androidバイスを2台接続したらどうなるのかは実験できていないが、音楽ライブラリの管理を考えると、私にとっては iOSバイスとのマルチポイントができなければマルチポイントそのものの価値がない。原因は判然としないが、着信通知時に音がガタガタになることがあるので、MW1のプロセッサが非力で、2つの機器とBluetoothで会話するだけの処理能力がないのではないかと推測している。

問題解決策はMW1のメリットを帳消しにする

マルチポイントがダメなら、全プロファイルをスマートフォン側と繋ぎ、シングルポイントで運用するのが解決策になる。バッテリ消費は増えるし、新しくAndroid用にライブラリ同期アプリを入れる手間がかかったが、それなりに使えることは確認できた(末尾注2参照)。

しかし、実はシングルポイントで使うなら、「メール着信に気付きたい」という要件を満たすのに、MW1は必要ないのである。なぜなら、前述したように、A2DPで接続していれば、マナーモード中でもメール着信音を含む全ての音がイヤホンから聞こえてくるからだ。つまり、ガラケーと違って、音楽ライブラリをそれなりに管理できて、通知音が全部A2DPに乗る…というAndroidスマートフォン)のメリットによって、Android用に設計されたMW1の長所がほぼ完全に消されてしまう、という皮肉な結果を招いている(残るメリットは「画面にも表示される」ことだけ)。この事実によって、マルチポイントの不具合が如何にクリティカルなのかがわかる。

結論

Androidで着信を逃さないためには、マルチポイント対応に関係なく、HFP/A2DP同時接続対応のBluetoothイヤホンがあればよく、MW1である必然性はない。シングルポイントにしか対応していない Bluebuds XBackbeat Go でもよいし、マルチポイント機能は無駄になるが XBA-BT75 でもよい。機体の小ささとハンズフリー通話時のミュート機能を考えると、Bluebuds X が一番ではないかと思って、Androidの音楽再生機能が継続的に利用可能な品質なのか、毎日の通勤で確認している。

もし相手が iPhone だったら

来年あたり、テザリングもできるようになった iPhone への機種変更も考えているので、iPhoneでの利用シーンも検討してみた。MW1はもちろん使えないが、iPhone には Bluetooth 4.0 があるので、Bluetooth G-SHOCK, Pebble, Cookoo, Proximity と言った各種スマートウォッチを使える。しかし、現時点ではこれらスマートウォッチは iPhone では真価を発揮できない状況にある。スマートウォッチでは通知の伝達に Bluetooth 4.0 から定義された ANP (Alart Notification Profile) というプロファイルを使うのだが、なんと iOS 6 は Bluetooth 4.0 対応なのにこの ANP を実装していない。スマートウォッチの製造元各社とも自前アプリに IMAP クライアント機能を実装して自力で通知を飛ばしているが、これでは Bluetooth 4.0 の省電力機能は台無しだし、通知がプッシュではなくプルになるのでリアルタイム性もない。まともに使えるようになるには、淡い期待とともに iOS7 を待つしかない。ちなみにApple は以前も「A2DPに対応したのにAVRCPに対応してない」とか、Bluetooth ドライバに関しては半端な状態の実装が常態化している。

注1

「マルチポイント」という用語は定義があいまいで、使っている人によって、以下の2通りの定義がある。

  1. 狭義のマルチポイント
    • 複数のプロファイルについて、プロファイルごとに別々の機器に同時に接続できること
    • ひとつのプロファイルにつき1台の接続
    • 例: HFP 1台+A2DP 1台で、2つのBluetooth機器を接続する
    • SONY などの音響機器メーカーの多くははこちらの定義を使っている
  2. 広義のマルチポイント
    • ひとつのプロファイルで複数の機器に接続できること
    • 例: HFPで2台の携帯に接続し、2台両方の電話着信を待ち受ける
    • Jabra, Motorola などのヘットセットメーカーの多くはこちらの意味で使用  * たいていはHFPでのマルチポイントを謳っていて、ほかのプロファイル、例えばA2DPでのマルチポイントは聞いたことがない

注2

やっぱりAndroidの音楽再生アプリはいまいちよくない。最初から入っている「Google Playミュージック」は突然再生がとまることがあるし、winampAVRCPプロファイルでのリモコン機能が効かず、ディスプレイに曲名が表示されない。