読書メモ: 応仁の乱

読書メモ: 応仁の乱

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応仁の乱の経過を、奈良・興福寺の大乗院門主である経覚・尋尊の2人の日記から読み解く。家督相続の基準が、実力でもなければ嫡男であることでもない中途半端な時代にあって、将軍・守護大名の勢力争いがいつまでもダラダラと続く様をよく理解できる。経覚と尋尊は性格がだいぶ違うので、応仁の乱を多面的な角度で眺められるほか、少し大仰に言えば、課題に対処しなければならないときに人が取るべき行動について大いに参考になると思う。

この本の特徴は、作家(小説家)ではなく研究者が書いた一般書、という点にあると思う。書かれている内容の根拠となる文献引用や、「xx氏はこう述べている」といった別の見方が多く示されており、内容に説得力がある(文系の人の卒論を読んだことを思い出した)。また、個人的には「階級闘争史観」というものを初めて知り、非常に興味深かった。戦後の文系インテリは左翼たるべし、みたいな空気をひしひしと感じる。あまり詳しくないが、教科書裁判で有名な旧東京教育大の家永先生などはそういう流れに沿った思想の持ち主だったのではないかと思う。 (その東京教育大の流れを汲む筑波大学は、そういう左翼研究者を放逐して筑波に移転したので、文系学部の先生に左寄りの先生は少ないように見えた)

応仁の乱の関係者と言えば、教科書的には足利義政細川勝元足利義視山名宗全で、ついでに家督争い当事者の斯波義廉・義敏、畠山義就・政長だが、この本を読むと、元凶は両畠山であることがよくわかる。実力では義就が上なのに庶子(出自が怪しい)で畠山家臣団から好かれていない、という状況が泥沼を作り出しているように見えた。人物で言えば、筒井順慶朝倉義景斎藤道三に連なる関係者(筒井順永・朝倉教景・斎藤妙椿)を見て「おおーこの人たちの流れであの人がああいう活躍をするのか」と理解できるのが、戦国時代好きにとっては面白い(義景に関しては「こんなすごいご先祖様なのに義景愚鈍すぎ」という感想)。 (余談: iOSIME はマイナー人物であろう「斯波義敏」とかまで辞書に入っていてびっくり)

というわけでサクサクと読み進めてしまったが、一般の人はこれで面白いのかどうか、ちょっとよくわからない。売れているから面白いと受け取られているのだとは思うが、古い組織(門跡寺院)や古い家(摂関・将軍・三管領)が目白押しで、結構読みにくいのではないか、と余計な心配をしてしまった。戦国時代の大河ドラマが好き、くらいであれば、楽しく読めるような気がする。